北欧福祉ツアー視察記②

ハンマルビー・ショースタッド(スウェーデン)

 北欧の中心都市であるストックホルム、広大な森林と周辺の湖があり、豊かな自然に恵まれた最先端のIT都市です。土地の9割を市が所有し、中心部では個人の住宅の建設に規制がかかりすべての集合住宅を市が建設しています。市街地の集合住宅は古いものに高さをそろえて建設され、街並みは洗練された雰囲気が漂っています。「1952年総合計画」により基盤整備がすすめられ、公共施設や商業地域を中心部に、その周辺にゆったりと集合住宅や戸建てが配置されました。90年代には環境重視のまちづくりが求められるようになり、市民、NPO,自治体、事業者、行政によるタウンミーティングを開催し広く意見を募ったうえで、1999年10月に市議会で新たな都市計画が採択されました。こうした経過をたどり環境保護に関して、最も先進的な取り組みをしている国の首都として、持続可能な発展をめざしたまちづくりがすすめられています。
1999年の都市計画の一環として行われた、環境に配慮した都市再開発が「ハンマルビー・ショースタッド」です。以前は古い港町と工業地区で、環境汚染の点でも問題視されていた地区でしたが、現在は8000世帯の集合住宅の建設が終わり、2万人が居住するまちに生まれ変わりました。プロジェクトが完了する2010年には3万人が居住する予定です。ハンマルビー・ショースタッドには中心を貫く大通り、両脇に商店、レストランなどのサービス施設、また、学校や保育園などの公共施設が集まっています。その周辺にデザインや高さが統一された集合住宅が立ち並び、川や街路樹など調和のとれた景観の美しさに引き込まれました。この地区は独自のリサイクルシステムや下水処理施設を有するほか、高齢者や障がい者に配慮したバリアフリーも取り入れています。また、今後に向けては、フェリーやカーシェアリングなど多様な交通手段が整備されるほか、歩道や自転車道などの充実も計画されています。
今回の視察の際、中心部の間を流れる運河を渡す船に乗りましたが、これも環境に配慮し橋を架けることを止めて料金無料の船を利用しています。(下の写真は船内の様子)
ストックホルム市では、「衣食住」の「住」を最も優先した考え方に特徴があり、住宅政策では、最低限の住まいの保障はもとより、高齢者が自らの暮らしにあわせることが可能な住宅供給をめざしています。一般の高齢者住宅、特別高齢者住宅(スタッフが常駐)といった種類の住宅があり、自己負担額もさまざまです。今後は、ケア付施設は建てず、最期まで自宅で過ごすことを可能にするために一般の住宅建設をすすめるそうです。
さまざまな年代の人々が暮らし、障がい者、移民などに対する「インテグレート(統合)」の考え方が貫かれています。私たちが訪問した障がい者のグループホームは、建物の中でも特に環境の良いところにあり、居住面積も十分確保されていました。24時間体制でスタッフが配置されていますが、あくまで自立サポートということで、生活指導など個々に対応しています。また、まちを歩くと必ず2〜3人の子どもを連れた父親や母親の姿を見かけました。スウェーデンでは、子育て中は郊外の戸建てに、老後は便利な都心の高齢者住宅に住むという選択が多いようですが、ハンマルビー・ショースタッドのまちは、多世代が暮らす健康的なまちという印象を受けました。このまちの根底に流れる「環境優先」「人権尊重」の意識は、誰もが幸せに生きることを保障する、社会福祉の原点であることをあらためて実感しました。